オーケストラ打ち込み備忘録(1)音源のこと

ここ数年、オーケストラサウンドを打ち込みで表現するための環境は大きく変化しました。中でもエポックメイキングな出来事だったのが「Vienna」と「QLSO」というオーケストラ音源の登場だったと言えるでしょう。

使用音源はQLSO Gold Complete

(※参考。実際の私の作品を下記にまとめてあります。
QLSOを使ったオリジナル曲のリスト

それらは巨大かつ大量の録音サンプルからなっており、発音の強弱はもちろん、各音階ごとに細かくサンプリングされているのが特徴です。そのため、それまでは困難だった「音域の違いによる音色変化」の表現が自然に行えるようになりました(さらにViennaに至っては、レガート演奏の際の音の連続変化なども表現可能になっています)。

これにより、実際のオーケストレーションのノウハウを用いた際の効果もグッと高まり、以前と比べて飛躍的に豊かな表現を行うことが可能となりました。

私が使用しているのは、両者の中でもサウンドカラーが個性的なQLSO(Gold Complete)です。メーカーサイトのデモを聴くとお分かりのように、ハリウッド映画のサントラの様な派手なサウンドを得意に、というか、それに特化したかのような音が特徴の音源です。

そのフォルティッシモは力強く、金管楽器や打楽器などはギラ付いた輝きのある響きを聞かせてくれます。また、ピアニッシモの音も繊細でありながら存在感がしっかりとあるのが良いところです。例えば、ミュート付き弦楽器のベルベットのような響きや、ピアニッシモのトランペットでの透明感ある響きをはじめ、魅力的な音色が数多くあります。

他にも、ミュートトロンボーンによる低い音域での和音、イングリッシュホルンの柔和なビブラート、バスクラリネットの深く静かに鳴動する低音、他の楽器に明瞭なふくよかさを与えるティンパニのやわらかい一打、高域の弱奏フレンチホルンが生む凛とした音空間などなど、枚挙に暇はありません。

しかし逆に言えば、室内楽サウンドや丸く温かみのある表現を行ったり、デッドな(響かない)空間での演奏を表現したい場合には足かせとなります。ですが私の場合、まず第一にリッチなフルオーケストラの響きが欲しかったので、それらのマイナスを差し引いてもQLSOを選択するメリットがありました。

QLSOの設定

当方で使用しているWindowsが依然としてXP、メモリが3GBという32bit環境であるため、フルオーケストラを用いる際には旧Kompakt版を使用しています。理由は、プリロード設定を最小にすることで大きな編成でも一台のPCで作業を完結できるためです。

しかし、細かい音符でのフルテュッティといった場面ではHDDストリーミング速度が追い付かず、発音が途切れるケースが出てきますので、適宜バウンスなどで対応する必要があります。

とは言え実際の制作作業においては、発音された音色が順次メモリにキャッシュされるため、編集再生を繰り返すほど発音切れが無くなっていきます。ですので、「特定の箇所を編集したら次の箇所へ」というプロセスで作業する分には音切れは大きな問題にはならないと感じています。

Kompakt版の便利な点は、一つのKompakt Player内で同一パッチを読み込む分には、いくつ読み込んでもパッチ一つ分のメモリしか消費しないことです。

つまり、例えばキースイッチパッチのホルンを四つ読み込んでそれぞれホルン1~4として割り当てても、メモリは一つ分で収まるということです。これにより、ひとつの楽器ごとの丁寧な表情付けが無理なく行えます。

私の場合、三管編成に相当する楽器それぞれに一つづつトラックを用意したものをテンプレートとして準備しています(ストリングスはディビジ用として2パートづつ)。

QLSOと言えばその濃厚な残響音が特徴であり、それを担うのがリリーストレイルと呼ばれる「残響(減衰)音のみのサンプル」です。これがノートオフ時に付加されることでホールの残響を再現しているのですが、私の場合はこれをオフにし、改めてIRリバーブを掛けています。

その理由はいくつかあり、一つ目は、ホルンやクラリネットの一部などに、どうしても不自然な残響イメージの音色があるため、その対策としてリバーブを掛け直すという理由からです。

二つ目は、コラール的な演奏では素晴らしい響きを聴かせてくれるのですが、フォルテピアノなどの各種アクセントやロングトーンを徐々に弱めていく演奏などでは、残響音ごと同時にそのまま小さな音になっていく不自然さがあるため、これもまた改めてリバーブを掛け直したほうが良いという理由からです。

最後の一つは、スタッカート系音色の表現力を上げるためです。スタッカート系の音色にはリリーストレイルは用意されておらず、ホールの残響が含まれた状態で録音されており、ノートオフのタイミングは指定できない(常に鳴らし切る)設定になっています。

そのため、細かい(短い)ソリッドなスタッカートを表現しようと思っても、いつも同じ細かさ(長さ)のスタッカートになってしまいます。そこで、初期設定では極めて大きな値になっているリリースタイムを自前で短く設定し直し、操作性を上げています。そうした結果、再生されなくなった残響部分を補うために、リバーブを掛け直す必要が出てくるわけです。

以上が基本的なQLSOの設定です。これらをベースにオーケストレーションを進めています。

(※参考。実際の私の作品を下記にまとめてあります。
QLSOを使ったオリジナル曲のリスト

「オーケストラ打ち込み備忘録(2)DAWのこと」へ続く。