レビュー『対位法』下総皖一 著

対位法の学習のための教科書は数多くありますが、本書は「二声対位法に習熟することが最も大切だ」という著者の言葉通り、二声対位法の解説がとても充実しています。

二声対位法の解説は本書の約半分(約80ページ)にあたり、これを熟読し実践するだけでも、かなりのステップアップが叶うことと思います。対位法という西洋音楽の美的判断基準を身に付けることは、自らのオリジナリティを築いて行く力のひとつとなってくれるでしょう。

レビュー

対位法は、和声法と並んで、西洋音楽の伝統的作曲技法の両輪を成す理論です。この種の理論においては、いわゆる「禁則」と呼ばれるものが目立つために、とかく「現代において意味がない」と思われがちです。しかし本来、声楽の自然な作曲を念頭に置いたものですので、「自然に無理なく歌えるため」の知恵なのだ、と捉えることが必要でしょう。

ですから、最終的には対位法の技術の習得というよりも、対位的な旋律感覚を身に付けることが肝要です。複数の旋律が絡み合い、同時に和声的空間をつくり出しつつ、それぞれの旋律の主張が出たり引っ込んだりしながら音楽を形作っていく、そんな音楽感覚を養って行ければ本書の価値はあるでしょう。

こういった本は、耳で音楽を理解すると同時に、眼と頭でも音楽を理解することを助けてくれるものだと思います。著者も前書きで述べているように、対位法は徹頭徹尾作曲技術の修練であり、ぜひそれを通して己の美的判断を磨くことに繋げたいものです。決して、「**せねばならない」というような偏狭な存在ではありません。

書籍情報

『対位法』
下総皖一 著
出版社:音楽之友社(ISBN:4276020042)
1951年6月10日第1刷発行
サイズ:162ページ

『対位法』の目次

  • 序編 旋律作法上の注意
  • 第一編 単式対位法
    • 第一章 二声対位法
    • 第二章 模倣法とその応用
    • 第三章 三声対位法
    • 第四章 四声対位法その他
  • 第二編 複式対位法
    • 第一章 八度転回対位法
    • 第二章 十度転回対位法
    • 第三章 十二度転回対位法
  • 終編 動機の展開