レビュー『作曲家の世界』パウル・ヒンデミット著

ドイツの作曲家ヒンデミットによる、自らの音楽論、作曲論を自伝的な要素も含めつつ書かれた本です。原書は1952年にドイツで出版されたもので、時代背景などの面で古さを感じさせる面もありますが、作曲する者としての思いが書かれたその内容は、大きな価値を持ったものです。

作曲家にとって音楽的霊感とは何なのか、作曲の素材の持つ意味とそれがもたらすものについて等、かなり踏み込んだ部分まで作曲の内実について語られています。本書自体が再版ものであり文章が硬く、また当時の音楽産業や思想界のことなどの背景知識もある程度必要とされるため、初心者にはお勧めしにくいですが、今なお一読に値する本だと思います。

レビュー

著者のヒンデミットは、作曲家として残した数多くの作品と共に、教育者としての活動が思い起こされます。自らの信じる音楽の姿を追い求め、またそれを広めようと腐心したと言えるでしょう。しかし、それは当時の世間とはズレが生じてしまう結果を生みます。

音楽の麻薬的側面(快楽的享受)ばかりを追い求める世間の風潮には、さぞかし苦々しい思いをしていたことでしょう。そして、現代に著者が現れたのならば、その風潮がクラブ系のジャンルにおいては純化され、独自の音楽スタイルとして存在していることに驚くのではないでしょうか。

さて本書では、そんな著者の苦々しさが顔を見せながら、著者なりの作曲行為の内実と言えるようなものについて言及されています。そこでは、「インスピレーションあふれる神秘的な作曲」というもののベールを剥ぎ取るような勢いが感じられ、とても興味深く思えます。

書籍情報

『作曲家の世界』
パウル・ヒンデミット 著
出版社:音楽之友社(ISBN:4276213827)
1999年2月10日新装版第1刷発行
サイズ:337ページ

『作曲家の世界』の目次

  • はしがき
  • 第一章 哲学的考察
  • 第二章 音楽における知的作用
  • 第三章 音楽における情的反応
  • 第四章 音楽的霊感
  • 第五章 作曲の素材
  • 第六章 技術と様式
  • 第七章 演奏家
  • 第八章 楽器について
  • 第九章 教育
  • 第十章 実際面
  • 第十一章 環境
  • 訳者解説/新装版によせて

著者について

パウル・ヒンデミット

世界的に有名な作曲家であって、1895年にドイツのハナウで生まれた。彼は間もなくドイツの第一流の若い作曲家として認められたが、それにも拘らず、非ドイツ的な作品を書いたという理由で、公に弾劾された。彼は管弦楽、吹奏楽、合唱、独唱、室内楽、バレエ、及び歌劇のための作品を書いている。彼はまたドイツ語及び英語の何冊かの楽理書の著者である。現在(*当時)彼はイエール大学の楽理教授であるが、同時にスイスのチューリッヒ大学の音楽教授として隔年に講義を行っている。(本書より引用)