レビュー『音楽して生きたい!』エリザベス・スウェイドス著

作曲家を志す人のための応援歌と呼べる一冊です。著者はミュージカルやオペラなどの分野で活躍し、トニー賞へのノミネート経験もあります。そういった分野で揉まれてきただけあって、エネルギッシュであり、また時にシニカルな視線からのユーモアも感じさせる内容です。

第5章「自分の音楽形式を見つける」をはじめ、作曲経験を積むプロセスにおいて大切だと思われることを、詩的な表現も交えながら具体的に語っているのが特徴です。

レビュー

その人にとって、作曲行為は「何のため」の「手段」であるか、またはそれ自体が「目的」であるのか、そしてその双方のバランスについて。こういったことは、永く作曲をしている方ならば一度は脳裏をよぎる問いではないでしょうか。音楽をつくるプロセスでの他者とのコミュニケーション自体が目的だ、ということもあるでしょう。また、創作という行為に我を忘れている状態が自分にとって自然なのだ、ということもあるでしょう。

作曲家である著者も同様に悩み、選択し、行動して来たことが本書から分かります。自分の好きなものを職業に選んだことによる悲喜交々が、ここには一杯詰まっているのです。それは実に具体的で、赤裸々ですらあります。

一種、神格化された過去の作曲家の自伝では味わえない、等身大で身近に感じることの出来る、そんな共感にあふれる本だと思います。若い人にはリアルな体験談を、経験者には共感と気付きを与えてくれるでしょう。著者の、音そのものとの出会いを大切にするその姿勢からは、大切な初心を思い出させてくれるのではないでしょうか。

書籍情報

『音楽して生きたい!』
エリザベス・スウェイドス 著
出版社:白揚社(ISBN:4826990154)
1995年5月30日第1刷発行
サイズ:304ページ

『音楽して生きたい!』の目次

  • 謝辞
  • 1 オープニング
  • 2 本当にいい師とは
  • 3 基本を身につける
  • 4 曲づくりのプロになるために
  • 5 自分の音楽形式を見つける
  • 6 何度でも書きなおす勇気を
  • 7 この世界で生き残るために
  • 8 作曲家として、女性として
  • 9 成功……さて、それから
  • 訳者あとがき/索引

著者について

エリザベス・スウェイドス

著者は、おもにオペラやミュージカルなどの舞台音楽を作っている現在活躍中の作曲家で、トニー賞にも数回ノミネートされている。また、本書にもあるとおり、大学で学生達の指導にあたり、ユニークな教育方法を実践するかたわら、自作のイラストをふんだんに使った子供向けの物語も数冊出版している。年齢は不詳だが、日本でいったら全共闘世代の少し後の世代、といったところだろう。(本書より引用)