『管弦楽法』ウォルター・ピストン著のレビュー

現在出版されている管弦楽法の書籍の中で、入手のしやすさ、内容の充実度、価格面、プラスアルファを考慮した際、まず安心してお勧めできるのが本書です。

オーケストラの各楽器の音域や奏法などの解説のみならず、過去の作曲家の作品からオーケストレーションを倣うために役立つ「分析法」のことや、旋律や伴奏のスケッチから具体的な管弦楽曲を形作る具体的なプロセスにも触れられているため、雲をつかむような状態の初学者が一歩抜け出して行くための助けになることと思います。

その後は、必要に応じて伊福部昭著『完本・管弦楽法』を入手するのが良いでしょう。こちらは、有機的な音響体としてのオーケストラについて、楽器相互間の連関性とその共同効果について、かなり突っ込んだ解説がなされています。

レビュー

オーケストラにおける各楽器の詳説や、実際の例を数多く掲載した本は、大小、色々と見掛けます。そんな中、本書の独自性は「第二部・管弦楽法の分析」と、「第三部・管弦楽法の実習問題」にあります。出来あがったオーケストレーションから技法を学ぶだけではなく、フレーズや伴奏を実際にオーケストレーションして行く過程が解説されています。

面白いのは、「和弦」という、ポピュラーで言うところの「ボイシング」についての項目です。ある和音を演奏するに当たって、金管、木管、弦、それぞれを、どのような組み合わせと音域で鳴らすと効果的かが述べられています。

一見、突飛に聞こえる個性的なオーケストレーションの多くは、自然な響きの延長線を、豊かな想像力で進んで行ったものだということに気付かされます。結果からだけでは見え難いものを、本書はつくり手側から照らし出そうとしています。

本書に掲載されている譜例は古典から近代ものまで幅広いですが、引用範囲は小さく、その多くは10小節程度に留まります。しかし、その事実が「微妙で繊細な感覚による配慮」の連続とその積み重ねの大切さを教えてくれています。この一瞬の音響世界のためにどれ程の思慮と判断がなされているのか、という本当の舞台裏が垣間見えるのではないでしょうか。

本書のように、管弦楽法の実例をピンポイントで解説したものとは違ったコンセプトのものとしては、ベルリオーズ著(R・シュトラウス編補)の『管弦楽法』が好対照だと思います。こちらでは、音楽の流れ・時間変化にも注目し、長い譜例が掲載されています。私としては、ベルリオーズのものは歴史的な読み物としての魅力のほうが勝っているという印象で、本格的な本を探している初学者は先ずウォルター・ピストンの本を参考にしたほうが良いと思います。

管弦楽法は、オーケストラと縁のある人のみならず、作曲をする人の多くに触れて欲しいものだと感じています。作曲における構成上の「メリハリ」や、音響的な「押し」と「引き」といったものを理解するのに大変役立つものでしょう。(2008/12/14補筆)

書籍情報

『管弦楽法』
ウォルター・ピストン 著
出版社:音楽之友社(ISBN:4276106907)
1967年2月25日第1刷発行
サイズ:520ページ

『管弦楽法』の目次

  • 原著者序文
  • 第一部 オーケストラの諸楽器
    • 第一章 弦楽器
      • 第二章 ヴァイオリン/第三章 ヴィオラ/第四章 チェロ/第五章 コントラバス
    • 第六章 木管楽器
      • 第七章 フルート/第八章 オーボエ/第九章 クラリネット/第十章 ファゴット
    • 第十一章 金管楽器
      • 第十二章 ホルン/第十三章 トランペット/第十四章 トロンボーン/第十五章 テュバ
    • 第十六章 打楽器
    • 第十七章 ハープ
    • 第十八章 鍵盤楽器
  • 第二部 管弦楽法の分析
    • 第十九章 構造の諸型-第1型:管弦楽のユニゾン
    • 第二十章 構造の諸型-第2型:旋律と伴奏
    • 第二十一章 構造の諸型-第3型:副次的旋律
    • 第二十二章 構造の諸型-第4型:声部書法(パート・ライティング)
    • 第二十三章 構造の諸型-第5型:対位法的構造
    • 第二十四章 構造の諸型-第6型:和弦
    • 第二十五章 構造の諸型-第7型:複合構造
  • 第三部 管弦楽法の実習問題
    • 第二十六章 旋律のオーケストレーション
    • 第二十七章 背景と伴奏
    • 第二十八章 和弦の総譜配置
    • 第二十九章 声部の動かし方と対位法
  • むすび/訳者あとがき/索引

著者について

ウォルター・ピストン

1894年生まれ。ナディア・ブーランジュ門下の現代アメリカ有数の作曲家。理論的著述によっても有名である。その著書中「和声学」と「対位法」は日本語訳がある。(本書より引用)