レビュー『バルトークの作曲技法』エルネ・レンドヴァイ著

本書は、バルトークの音楽作品の特徴を「黄金比」「フィボナッチ数列」によって捉え分析を行った研究書です。「弦・打・チェレスタのための音楽」や「ピアノコンチェルト」「ミクロコスモス」など、代表作を譜例を交えて取り上げながら、バルトーク独自の方法論を明らかにしていきます。

音楽的時間という体感時間にも黄金比を持ち込むことの是非や、我田引水の嫌いが若干あるなど、現在ではその研究成果への疑問も呈されていますが、バルトークの作曲技法の独自性を明らかにすることに成功したという、その歴史的意義は薄れるものではありません。

日頃からバルトークの音楽に馴染みのある人や、その響きの世界の一端を手中にしてみたい作曲者には、その具体的な分析内容が応用のきっかけとして生きてくると思います。なお本書は、バルトークの作曲技法を手取り足取り教示してくれるタイプの本ではありません。楽典や和声の初歩的な知識は必須です。

レビュー

バルトークは、伝統的西洋音楽の作曲における大きな力である、属和音、五度圏、導音といった要素を、独自の観点から組織化し、それを元に作曲を行いました。バルトークの発言に「全ての芸術は、先立つ時代の芸術にその根を持っているべきである。そして、持つだけでなく、そこから育たなければならない」とあるように、西洋音楽を根とし、そこからさらに育てて行こうとしたわけです。

育てて行くに当たって大きな影響を与えたのは、自然界に見られる「黄金比(1:0.618・・・)」でした。黄金比はその視覚的自然さとバランスの美しさから、建築や造形美術に広く応用されていますが、音楽に積極的に応用したのはバルトークが初めてでした。実際に音楽に利用されたのは、黄金比を生み出す「フィボナッチ数列(1、2、3、5、8、13・・・)」で、これを主に音程に適用しました。

さて、そこからどんな音楽が生まれたのかは、実際に聴いて頂くしかありません。私見を述べれば、「透明で厳しい音楽」だと思います。ちなみに、フィボナッチ数列の「13」を音程に直すと「短九度(オクターブ12半音+1半音)」という、“耳に辛い”音程が生じます。そして、実際の曲中にも短九度が頻出しています。ところが、不思議とバルトークの音楽には透明感を感じるのです。こういったところが音楽の不思議さです。

ちなみに、バルトークの旋律や和音は、ジャズのサウンドととても似たところがあるのが面白いところです。あなたも本書でバルトーク・サウンドに触れてみませんか?

書籍情報

『バルトークの作曲技法』
エルネ・レンドヴァイ 著
出版社:全音楽譜出版社(ISBN:4118000806)
1978年7月25日第1刷発行
サイズ:124ページ

『バルトークの作曲技法』の目次

  • 音組織の原理
    • 中心軸のシステム
  • 形式の諸原理
    • 黄金分割
    • フィボナッチの数列
  • 和音と音程への適用
    • 半音階システム
    • 全音階システム
  • 附録 I、II、III
  • 訳者あとがき

著者について

エルネ・レンドヴァイ

エルネ・レンドヴァイは、1925年ハンガリーの西南部の小都市コポシュヴァールに生まれています。ブダペストのリスト音楽院で作曲、理論を専攻、卒業後ソンバトヘイ、ジュール、セゲド、ブダペスト等の音楽専門学校の教師を歴任、一時、放送局に勤めていたこともありますが、現在(*当時)はブダペスト音楽大学の講師です。(本書より引用)