レビュー『クラシックを聴け!』許光俊 著
シンプルな語り口で大胆に解説する痛快な一冊です。クラシックを聴き始めたものの、延々と繰り広げられる音の洪水に目を回している人には、うってつけでしょう。特に、ソナタ形式という名前は知っているもののその実感がつかめない人は、この本によってグッと近づけるようになるでしょう。
作曲をする人にとっては、音楽構造の把握とその操作についての気付きや発見につながると思います。特に、ある程度作曲経験が出来た中級者には、音楽を形作る視点が一皮むけるかもしれません。
レビュー
私は、本書を読んで「ロメオとジュリエット」を聴くまでは、チャイコフスキーをしっかりと聴いたことがありませんでした。著者の言うような、「甘いメロディーだけの作曲家」とまで思っていた訳ではありませんでしたが、有名なバレエ曲を断片的に聴いていた程度だったのです。
しかし、初めて「ロメオ~」を聴き、本書64ページからの詳細な説明をはじめとする内容に触れるにつれ、なるほどチャイコフスキーはメロディー・センスだけではなく、音楽の構造に対する確かな耳を持った作曲家だったのだな、と実感しました。
その後、遅れ馳せながら交響曲などのメジャー曲を聴き、「構造」と「エモーショナルなもの」とのせめぎあいが垣間見れることに面白さを感じたりもしました。そしてチャイコフスキー自身、構造と感情的なものと、どのように折り合わせるかに悩んでいたのではないか、と思ってしまうのです。
さて、本書をご覧になればお分かりの通り、著者はかなりの辛口です。大学での講義はどんな調子で行っているのか、少し気になってしまいます。
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クラシックがクラシックである理由~『クラシックを聴け!』を読んで
書籍情報
『クラシックを聴け!』
許光俊 著
出版社:青弓社(ISBN:4787271008)
1998年9月30日第1版発行
サイズ:275ページ
『クラシックを聴け!』の目次
- 序文に代えて
- 第1章 超基本1から6まで-聴き始める前に
- クラシックの超基本1と2/推理小説とサラダの秘密
- 超基本3/とてつもなく大事な演奏家
- 超基本4/ナマ以外はウソなのだ
- 超基本5/美しさには二種類ある
- 超基本6/これがクラシックの曲種だ
- 第2章 実践編1-基本の三曲、これだけ聴けば、クラシックは完全にわかる
- 恋愛大悲劇をテーマにした音楽に隠された奥義/チャイコフスキー「ロメオとジュリエット」
- ソナタ形式の謎、これがわかればクラシックは九〇パーセントわかる/モーツァルト「ピアノソナタ第十五番」
- クラシックのパターンはここに完成した/ベートーヴェン「交響曲第九番」
- 第3章 実践編2-もっとディープに、もっと危険に
- ベートーヴェンを尊敬しつつベートーヴェンを超えた大天才シューベルト/シューベルト「交響曲第八番 未完成」
- ベートーヴェンとシューベルトの末裔たち
- アントン・ブルックナー「交響曲第八番」/そして、本書の結論、クラシックのその後
- 第4章 コレッキリ!実用情報
- これがスゴイ作曲家だ!
- クラシックのホール徹底解析
- クラシックのチケットは高いか?
- これがコンサートの最初から最後まで
- どれが聴くに値する演奏家?/<生きている人>編
- どれが聴くに値する演奏家?/<死んじゃった人>編
- 世界のオーケストラ、どれを聴けばいいのか?
- オーディオは重要か?
- 誰を信じればいいのか?/評論家ぶったぎり
- 古楽とは何か?
- あとがき
著者について
許光俊(きょ みつとし)
1965年、東京生まれ。慶應義塾大学で美学、東京都立大学大学院でドイツ文学を専攻。現在、横浜国立大学マルチメディア文化課程講師。(本書より引用)