レビュー『ブルー・ノートと調性』濱瀬元彦 著

硬派でクールな音楽理論書、そう言うと怒られるかもしれませんが、本書は理工学書のような紙面構成をもった珍しい理論書であり、その内容も緻密なスケール(音階)検証を重ねて行きながら一つの結論に到達するという、まさに骨太な一冊です。

大きな特徴は、その理論的成果を元にした実践がCDとして添付されていることです。本書が提唱する響きの世界がどのようなものか、それがCDから具体的に伝わってくるのです。

文章は、バークリーシステム(いわゆるジャズ理論)のある程度以上の理解が必須なので、初心者がいきなり手にすることはお勧めできません。逆に言うと、それらを一通り習得し実践している人にとっては、とても面白い内容だと思いますし、自分の響きの感覚が拡張されるような体験が得られる可能性があります。ただし、読みこなすには根気が必要です。

著者の見解を下記のページで引用紹介していますので、参考にどうぞ。
「作曲に関する発言」その3(ページ中ほどに濱瀬元彦氏の発言を掲載)

レビュー

本書の内容についてはコラムでもお話していますが、内容を理解するに当たり、もうひとつ興味深い事項があります。それは、フランスの音楽学者エドモン・コステールが提唱した「親和性」という考え方です。

コステールの著書「和声の変貌」は親和性についての本なのですが、「ブルー・ノートと調性」でも同様に親和性の説明がなされており、それが本書の重要なキーワードになっています。単なるメジャー・スケールを親和性に基づいて分析し、そこからスケールの重心を導き、ドリアン・スケールを基準に論を進めていく辺りは、ぜひ本書を見ていただきたいところです。

この「親和性」の考え方は、調性の希薄な楽曲での和声進行の把握に対して、非常に便利なものです。単純で、しかも数字で表せる、まさに「ものさし」のようなものだと思います。

この本は他のコラムでも取り上げています

新たな調性世界を求めて~『ブルー・ノートと調性』を読んで

書籍情報

『ブルー・ノートと調性』
濱瀬元彦 著
出版社:全音楽譜出版社(ISBN:4118850508)
1992年3月20日第1版発行
サイズ:279ページ

『ブルー・ノートと調性』の目次

  • 序文/目次/表記法
  • 1.0 Lydian Chromatic Concept 批判
    • Lydian Chromatic Concept の概略/Lydian Chromatic Concept 批判
  • 2.0 ブルー・ノートと調性
    • ブルー・ノート論/下方倍音列領域がつくる世界
  • 3.0 音階と和音
    • 音階論/音階の近似性と包含性/音階と三和音/和音に決定される音階
  • 4.0 Upper Structure triad と Hybrid chord
    • Upper Structure triad/Upper Structure triad から Hybrid chord へ/Hybrid chord の分類
  • 5.0 Sus4 と下方倍音列領域
    • Sus4 の導入/Sus4 の拡大と Hybrid chord の拡大/Sus4 と下方倍音列領域
  • 6.0 交換と展開
    • Horizontal modality/Vertical Polymodality/相互関係/IIm7→V7の導入
  • INDEX
    • 項目 INDEX/人名 INDEX/文献・作品名 INDEX
  • 付属CD data
  • 著者略歴

著者について

濱瀬元彦(はませ もとひこ)

1952年生まれ。1976年より様々なジャズ・グループでベーシストとして活動。独自の理論による各種演奏メソッドを開発。演奏家・理論家。(本書より抜粋)