レビュー『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』久保田晃弘 監修

コンピュータテクノロジーと音楽表現の関係に関心のある人向けの本です。具体的な技術や方法論の解説というよりも、各方面の実践者や評論家による考察や批評がメインとなっており、読み物としての傾向の強いものになっています。

ちなみに、技術的な専門内容を扱った本としては、『コンピュータ音楽―歴史・テクノロジー・アート 』があります。こちらはコンピュータ音楽の基礎理論からプログラミングの実際までを網羅しており、とても充実した内容になっています。

レビュー

私の作曲環境はPCを中心にしたものです。Windows上でシーケンス・ソフトを走らせ、ソフト・シンセや音源を鳴らし、それを波形取り込みしつつ全体をつくって行きます。子供の頃から、私の音楽とコンピュータ・テクノロジーとは切っても切れない関係にあります。その根底には、私自身、楽器演奏が苦手だったということと、演奏のために複数の人手が必要だったことがあります。

音楽における技術的障壁を取り除く力として、当初はコンピュータと付き合ってきました。以来、現在では、この環境だからこそ可能な表現と、その表現と自分の音楽性との折り合いを付けることに興味があります。

日々多くの時間をそういったテクノロジーと共に過ごしてくると、それらテクノロジーの、自分の中における客観的位置付けや、当時の意味といったものが見え難くなります。そんな中、本書は、過去を振り返りつつ未来を想うということを試みています。

いわゆるDTMと呼ばれる音楽制作を昔からされている方にとっては、本書にニヤリとさせられることが色々とあるのではないかと思います。「アレがこんな風に発展していたのか」とうなったり、80年代アーティストのインタビューを思い出して、「言ってた通りになったなあ」と思ったりするかもしれません。

この本は他のコラムでも取り上げています

テクノロジーと作曲との関係~『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』を読んで
音楽における”歴史的問い”の喪失~『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』を読んで

書籍情報

『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』
久保田晃弘 監修
出版社:大村書店(ISBN:4756320260)
2001年12月25日第1刷発行
サイズ:355ページ

著者について

久保田晃弘(くぼた あきひろ)

数値流体力学、設計科学(人工物工学)に関する研究を経て、現在はアルゴリズム、インターフェイス、音響の3つをテーマに、デジタル表現に関する思索と制作を行う。多摩美術大学情報デザイン学科「数と知覚のインターフェイス」研究室助教授。(本書より引用)

イオス・スモルダース

1960年オランダ生まれ。実験音楽グループ・THU20の元メンバーであり、現在はソロで活動中。メディア・コンサルタント、ライターも務める。(本書より引用)

椹木野衣(さわらぎ のい)

1962年生まれ。美術評論家。展覧会キュレーションに「日本ゼロ年」(水戸芸術館)他がある。現在、多摩美術大学助教授。(本書より引用)