レビュー『コード・スケール ハンドブック』北川祐著

シンプルな方法論によって合理的にコードスケールを導き出す、その具体的方法が解説されています。この一冊で全てを理解することは難しいですが、ガイドブックとして手元にあると便利なタイプの本です。一般的な音楽理論の学習がある程度進んできた人(コード進行が理解でき始めた人)には、よい副読本となると思います。

レビュー

(※私の手元には1989年版しかありませんので、現在の新装版とは食い違う点があるかもしれません)

この本は、こう言って良ければ「推理小説のような本」ではないかと思います。「2.スケールの種類と構成および相互関係」において、まず本書のスケールに対する着眼点を提示し、「3.コード・スケールの考え方」ではその視点から、コード機能にふさわしいスケールの導き方や、その比較検討を行っていきます。この辺りは探偵が淡々と論理を展開していく様を思い浮かばせます。

本書の探偵は、スケールの導き方の基本として、コードトーンの隙間に音階の音を埋めていく方法を取っています。例えばCM7(構成音C、E、G、B)に対して、キーがCならば「D、F、A」でコードトーン間の隙間を埋めて「Cイオニアン」を導き、キーがGならば「D、F#、A」で埋めて「Cリディアン」を導き出すという具合です。

この時、どんな条件で「埋める音」を選ぶかが大切な部分で、本書では「調性に基いて」、「代理関係に基づいて」、「後続のコードに基づいて」、「意識的な調性外音の使用」といった判断基準を設けています。そして、この一番目と二番目が基本的なコードにおいて一致することが、そのスケールが用いられることの正当性をあらわしているのだ、というわけです。本書の後半では、それまでを踏まえて「4.コード・スケールとコード・サウンド」、「5.コード・スケールとインプロビゼーション」が説明されています。

私はこの本を通して、合理的なスケールの導き方を教えてもらったように思っています。編曲をする時、候補をいくつか上げるために、この考え方が大変役に立っています。その後、価値判断を加え、音楽にして行くのです。

この本は他のコラムでも取り上げています

回答法という回答~『コード・スケール ハンドブック』を読んで

書籍情報

『コード・スケール ハンドブック』
北川祐 著
出版社:リットーミュージック(ISBN:4845603624)
1989年2月10日第1版発行
サイズ:80ページ

『コード・スケール ハンドブック』の目次

  • 1 コード・スケール(Chord Scale)とは
  • 2 スケール(音階)の種類と構成および相互関係
    • 長音階/短音階/協会旋法/ディミニッシュ・スケール/ドミナント7thスケール/その他のスケール
  • 3 コード・スケールの考え方
    • 調性に基づく考え方
      • A.長調の場合/B.短調の場合/C.サブドミナント・マイナー・コード/D.メロディー・ノートとの関連性/E.意識的な音階外音の使用
    • 代理関係に基づく考え方
      • A.長調での主要和音の代理コード/B.短調での主要和音の代理コード/セカンダリー・ドミナントの代理コード
    • 後続するコードに基づく考え方
      • A.平行和音の場合/B.ドミナント・モーションの場合/C.テンションのオルタード化/[各種の考え方によるコード・スケール一覧]
  • 4 コード・スケールとコード・サウンド(Chord Sound)
    • アボイド・ノート
      • A.完全4度のアボイド/B.長・短6度のアボイド
    • テンション・サウンド
      • A.メジャー・コード/B.マイナー・コード/C.マイナー7th・コード/D.マイナー7th(-5)・コード/E.ドミナント・コード/F.ディミニッシュ・コード
  • 5 コード・スケールとインプロビゼーション(Improvization)
    • フェイクとコード・スケール/インプロビゼーション(アドリブ)とコード・スケール
  • 6 モード(Mode)
    • メジャー・モード/マイナー・モード

著者について

北川祐(きたがわ ゆう)

1935年大連市生まれ。早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラ出身。渡辺貞夫・脇野光司・今村清一の各氏に師事。ビッグバンド・ジャズを中心とする作編曲のほか、ヤマハ音楽院ではコード理論及び編曲法の講師。リットーミュージックより編/著作…などの音楽業歴約40年。(著者サイトより引用)