レビュー『音楽史17の視座』田村和紀夫、鳴海史生 著
歴史を紐解くということは、現在に至るまでの流れを理解することによって「今」を知り、そのことを通して普遍的なものを見付けること、と言えるかもしれません。音楽史を紐解く時にも、同じような欲求があるのでしょう。そして、それに答えてくれる音楽史の良書も世の中に存在します。
本書はその点、一風変わった視点から音楽史を見つめています。例えるならば、17箇所のタイムマシンの出口が用意されているのです。本書に導かれて、ある時代のある音楽に触れつつ、そこでの著者の問いや考えを共有し、さらにその時代を自らの足で探索して行くか、それともタイムマシンで別の時代へ移動するのかを決めて行く、そんな「点と点の移動」のような音楽史体験が味わえます。
歴史的事実を列挙するに留まらずに著者の考えが述べられている本というのは、とても好感の持てるものです。著者と共に歩み、共に考えるという感覚は、作曲という一種孤独な作業のなかにおいて、一服の清涼剤になると思うのです。
書籍情報
『音楽史17の視座』
田村和紀夫、鳴海史生 著
出版社:音楽之友社(ISBN:4276110114)
1998年4月10日第1刷発行
サイズ:191ページ
『音楽史17の視座』の目次
- プレリュード
- 「音楽」とは何か?-ムーシケーが語るもの
- 第一部 音楽と思想-「わたし」探しの歴史の旅
- 第1章 ルネサンス-近代の視点
- 第2章 バロック-感情表出のための音楽
- 第3章 古典派-人格の表現としての音楽
- 第4章 ロマン派-意識=時間=音楽
- 第二部 音楽と諸芸術
- 第1章 イタリア・ルネサンス美術と音楽-目覚めた感覚
- 第2章 総合芸術《魔笛》の世界-古典主義のクリテリア
- 第3章 文学と音楽の接点-《詩人の恋》におけるロマン的なもの
- 第4章 絵画と音楽の印象派-光と色彩の饗宴
- 第三部 音楽と社会
- 第1章 近代人の出現-ベートーヴェンと「芸術」
- 第2章 芸術と商品の間で-ショパンとリストの場合
- 第3章 ブルースからビートルズまでの音楽社会史-若者の「発見」
- 第4章 日本のポピュラー音楽における女性-音楽とジェンダー
- 第四部 音楽史の原理
- 第1章 メディアとしての楽譜-五線譜の意味と意義
- 第2章 器楽の誕生-音楽の自律化への道
- 第3章 調性という遺伝子-クラシックとポピュラーを超えた視点
- ポストリュード
- モダニズムとポストモダニズムの相克-歴史的発展の原理
著者について
田村和紀夫(たむら わきお)
石川県七尾市生まれ。1981年、国立音楽大学楽理学科卒業、1983年、同大学院修士過程(音楽学専攻)修了。現在、尚美学園短期大学助教授。(本書より引用)
鳴海史生(なるみ ふみお)
青森県むつ市生まれ。1984年、国立音楽大学楽理学科卒業、1986年、同大学院修士過程(音楽学専攻)修了。1988~90年、ドイツ・ライプツィヒに留学。現在、尚美学園短期大学専任講師。(本書より引用)