レビュー『音楽の霊性』ピーター・バスティアン著

音楽という不思議な体験をスピリチュアルに描いた音楽書です。著者の体験から導き出された言葉の数々が穏やかな余韻を与えます。音楽家の心に寄り添うような読書体験をしたい人におすすめです。

レビュー

著者は指揮者の故チェリビダッケに師事したことがあることから、仏教的世界観の影響を大きく受けているようです。音楽をスピリチュアルな面から見つめ、著者が音楽を通して感じたことを、静かに素直に語っています。

前半、実際の演奏活動から気付いたことや、理論的事項に対し、「その時、心に何が起きているのか」が僧の説教のごとく語られていく様子は、独特の雰囲気が感じられて類書を見ない点です。その語り口は静かで熱く、軽やかで強いものです。

本書を最後まで読み終わった時には、「自分は音楽から何を感じているのだろうか」と自問することになるのではないかと思うのです。言うなれば本書は、「瞑想的音楽書」なのかもしれません。

書籍情報

『音楽の霊性』
ピーター・バスティアン 著
出版社:工作舎(ISBN:4875023227)
2000年1月20日新装版第1刷発行
サイズ:229ページ

『音楽の霊性』の目次

  • 0 序文
  • 1 音楽を記す
    • 言語/言語の外へ/音楽と言語/音楽を記述する/意識のモデル/明晰さ-曖昧さ-逆説/五度音程を説明することはできるか
  • 2 音楽と出会う
    • 自我の防衛/自覚/共鳴/音楽性/統一性
  • 3 音楽を知る
    • 音/基本的な音楽要素の追求/音高(ピッチ)と自然な傾向/音程(インターヴァル)/旋法(モード)音楽/ムスタファ/許容範囲/動き/拍、拍子、リズム/テンポ/実体、力、エネルギー/メロディ/構造/即興
  • 4 音楽を表現する
    • 技術的な熟練/昂まり(インテンシティ)/内なる心象形成/感情/対峙/模倣と構造
  • 5 音楽を受けとめる
    • 音楽の表面/音楽の表面下には/音楽の断食/一緒に演奏する/若者・子ども/テイク・オフ……/「現実」の仮面をはぐ/もう一つのリアリティ
  • 6 音楽からリアリティへ
    • アヴァンギャルド/リアリティの多くの顔/意志/統御-偶然性/知性-感情/愛/時間-現在/生/良いと悪い/選択
  • 訳者あとがき
  • 音楽用語集
  • ピーター・バスティアン ディスコグラフィー
  • 著者・訳者紹介

著者について

ピーター・バスティアン

1943年生まれ。クラシック演奏家としても、リズム音楽家としても高い評価を得ているデンマークのバス-ン奏者。両親がオペラ歌手という音楽的環境に育ち、コペンハーゲン大学で理論物理学を専攻すると同時に、王立デンマーク音楽学校でクラシック音楽の正統を学ぶ。

1970年から伝説的指揮者/哲学者であるセルジウ・チェリビダッケに師事、その仏教的世界観に多大な影響を受け、世界中をバス-ンとともに放浪。現在、スカンジナビアで最も優れた室内音楽アンサンブル”デンマーク・ウィンド・クィンテット”のメンバーであるとともに、おそらく世界唯一のエレクトリック・バス-ン奏者として、実験的バンド”バザール”を主宰、そのカテゴリーを越えた音楽的アプローチに注目が集まっている。(本書より引用)