『管弦楽技法』ゴードン・ヤコブ著のレビュー

わずか120ページほどの本書の中に、管弦楽法のエッセンスが収められているのは驚くべきことです。著者の長年の経験から生まれた警句の数々は、今なお傾聴に値するものです。

本書は、楽器論としての内容はごく最低限に留まっていますが、「いかにオーケストレーションするか」の解説が初心者にも分かりやすく、秀逸です。弦楽合奏のみのオーケストレーション、木管楽器群のみの場合、それらの混合、そして金管・打楽器を含めた全合奏へと、順を追って具体的な判断基準を提示しながら解説されています。

レビュー

こういった技法書の中には、カタログ的・網羅的に事項を羅列したものも多いですが、個人的には著者の主張や価値観が前面に出ているタイプの本のほうが興味深く好感が持てます。本書もそんな個性的な一冊です。

オーケストレーションの初心者や、一般の聴き手へ向けたものとして書かれているので、辞書的な検索性や精密さは求めず、言うなれば「物語を読むように管弦楽法の世界に入って行ける」ように考慮されていると感じます。

例えば、子供に交通ルールを伝えるために、お芝居や紙芝居などで事故の様子を演じて、出来事を追体験させて理解させるという手法がありますが、本書の印象もよく似ています。読み物として通読した後に、読者にオーケストレーションの現実的プロセスをイメージさせることが出来るということは、特筆に価します。

私も昔、本書から、木管楽器とホルンを弦と組み合わせる際のポイントをはじめとして、具体的な示唆を得ましたし、乏しい経験ながらも「やっぱりそうだよな」と肯かされる言葉の数々もありました。

例えば大変初歩的な注意点として、ポップスやジャズ畑の者がオーケストレーションする際には、リズムをリズム楽器によって強調しがちなのですが、これを著者がピシャリと戒めているのは痛快ですらあります。

また、初心者の壁の一つ「木管楽器群と弦楽器との混合と対比」についても小編成管弦楽の章で、組み合わせパターンの出現頻度の表を出すことを手始めに、読者の悩みを見透かすように解説されており、各自の研究へと飛び立ってゆくためのジャンプ台としての役割を担ってくれています。

将来の自分の経験を通じて、本書の内容に修正やバリエーションを加えることは当然として、まずこういった本にどっぷり浸かることは、ひとつの座標軸を自分の中に持つことの有益性からもお奨めしたいです。

「入学していずれ卒業する」という意味で、実に教科書らしい教科書だと思いますし、大人になって教科書を読み返すときの「新たな気づき」が豊富に味わえる、そんな素晴らしい一冊です。

書籍情報

『管弦楽技法』
ゴードン・ヤコブ 著
出版社:音楽之友社(ISBN:4276106915)
発行日:1958年4月30日
サイズ:120ページ

『管弦楽技法』の目次

  • 第一章 緒言
  • 第二章 弦楽合奏
  • 第三章 木管楽器およびホルン
  • 第四章 木管楽器およびホルン(続)
  • 第五章 小編成管弦楽
  • 第六章 金管楽器
  • 第七章 打楽器
  • 第八章 Harp, Glockenspiel, Xylophone, および Celesta
  • 第九章 全管弦楽 トゥッティ
  • 第十章 一般的な注意事項
  • 索引

著者について

ゴードン・ヤコブ

ゴードン・ヤコブ(Gordon Jacob)は、1895年5月にロンドンに生まれた。彼は Royal College of Music において Boult および Stanford の下で作曲を学び後に同校の作曲、管弦楽法、指揮の教授となった。彼の主な作品はロンドンの Vicwells company によって初演されたバレエ Jeu in the Bush および Uncle Remus のほか、Piano と弦のための Concerto(1926)、Oboe と弦のための Concerto(1933)、Orchestra のための Variation(1937)、などをあげることが出来る。