レビュー『コンプリート・アレンジャー』サミー・ネスティコ著
著者は、アメリカの著名なアレンジャーであり、カウント・ベイシー楽団の後期におけるアレンジを手掛けた他、テレビ音楽や映画音楽界の大御所と呼ばれる人物です。それだけに本書はアレンジの実例を挙げながら終始実践的なスタンスで書かれており、編曲における要請に対してどのようなアプローチで解決して行けばよいか、その心構えといったところから書かれています。
コード理論や対位法などの音楽理論については、読者は既にある程度の理解があるものとして内容は進んで行きますし、そういった理論を基礎から学ぶ内容もありません。文字通り、どういった楽器をどのようにオーケストレーションするとどんなサウンドになるのかという編曲の実際を具体的に提示することに徹しています。
本書の解説スタイルは、豊富な譜例とそれに対応したCD音声を通して「目と耳で確認し理解すること」が特徴になっています。後半になると、引用される譜例も長いものになっており、音楽的な時間の流れと譜面との具体的な対応の様子が把握できるように工夫されています。実際の編曲作業においては、この「時間変化の演出」が大切な要素の一つであり、本書がそのことに配慮されていることは注目すべき点です。
レビュー
編曲の学習法の内で一番なのは、言うまでもなく「トライ&エラー」、つまり「書いてみて演奏してみて聴いてみて失敗すること」です。とは言え、作曲者の思い通りの作曲環境や演奏環境は、早々手に入るものではありません。大抵は「書いてみた」としても「演奏の場が無い」ということになろうかと思われます。プロであれば、制限された環境の中で最大の効果を上げることを求められる、といったことになるでしょう。
そんな中、どの様にして「トライ&エラー」の経験を積めば良いのでしょうか。昔から言われることは、「スコアを(鍵盤などで弾きつつ)よく読んで音を想像すること」と、「色々な演奏を聴く機会を持ち、“音の記憶”を増やすこと」です。
本書の優れた点は、譜例のほぼ全てがCDに収録されていることです。その数、およそ80トラック。そのことにより、スコアと出音の関係がよく理解できます。特に「チャプター9・アレンジを始めましょう」は、アレンジという作業の実際を要素ごとに解説されており、著者の方法論が開陳されています。
書籍情報
『コンプリート・アレンジャー』
サミー・ネスティコ 著
出版社:リットーミュージック(ISBN:4754930576)
1997年4月30日初版第1刷発行(2005/12/20普及版発行)
サイズ:352ページ
『コンプリート・アレンジャー』の目次
- 謝意/CDプログラム/プレリュード
- CHAPTER 1:基礎知識
- CHAPTER 2:サクソフォーン・セクション
- CHAPTER 3:木管楽器
- CHAPTER 4:金管楽器
- CHAPTER 5:リズム・セクション
- CHAPTER 6:打楽器セクション
- CHAPTER 7:ストリング・セクション
- CHAPTER 8:編入楽器
- CHAPTER 9:アレンジを始めましょう
- CHAPTER 10:オーケストレーション~音色
- CHAPTER 11:多重録音(マルチトラック・ミュージック)
- CHAPTER 12:電子楽器
- CHAPTER 13:シンフォニック・バンド
- CHAPTER 14:追想
- CODA(コーダ)
- 音楽用語/著者略歴/CHAPTER11&12協力者略歴
著者について
サミー・ネスティコ
青年時代よりアメリカのラジオ局WACEの専属アレンジャーを経て、空軍音楽隊、海軍音楽隊等の専属アレンジャー/ディレクターを務める。’70~’80年までカウント・ベイシーのレコード10作品をアレンジ、内4作品がグラミー賞を受賞。キャピタル・ レコードのアレンジャーとして63作品のアルバムを制作。20世紀フォックス、ユニバーサル、パラマウント、ワーナー・ブラザーズ、MGMなどの映画音楽を担当。またグラミー賞、アカデミー賞、エミー賞などの特別番組や、スパイ大作戦、刑事コロンボ、バイオニック・ジェミーなどのテレビ番組の音楽を数多く担当。ビング・クロスビー、サラ・ヴォーン、フランク・シナトラ(クインシー・ジョーンズと共作)など、有名アーティストのレコーディングも手掛ける。(本書より引用)